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新しい植物分類体系 書評・レビュー

本レビュー
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基本情報

著者:伊藤元己、井鷺裕司(それぞれ東大、京大の生物系の教授)

出版社:文一総合出版

全体の感想

タイトルの通り、最近になって一新された植物分類の解説書。
遺伝子の解析が進む前は形態的な分類を行っていたが(新エングラー、クロンキスト体系)、遺伝子解析が進んだことでその見直しが進み、被子植物に関してAPG (Angiosperm Phylogeny Group:被子植物系統研究グループ)と呼ばれる体系が作られて分類が見直された。
この本では新旧の移り変わり(第2章)、そして新体系分類の見方(第4章)、新体系を用いた被子植物の進化(第3章)が解説されている。

特に第2章は以前の分類をかなり細かく知っている人じゃないとついていくのが大変(私は全然知らなかったので、大変だった。。。。)だが、第3章、第4章はとても興味深かった。(とはいっても多少の植物の事前知識は必要)

全体を通して系統樹と一緒にその写真がしっかり掲載されているのが本当に良かった!
そして個人的には表紙がつや消しなのとデザインがすごい良いのもポイントが高い(文庫じゃないため定価2400円といい値段するが。。。)

以下に各章の軽い紹介、感想を書き連ねる。

APG第1章 植物図鑑の配列が変わった!

タイトルの通り、新しい図鑑やネットの資料(Wikipediaなど)は基本的にAPGに基づいた分類が記されるようになっている。この章ではAPGの分類を概観しているが、特に被子植物が単子葉類と双子葉類にきれいにわかれるのではなく、基部被子植物、単子葉類、真正双子葉類というような分類が正しいという点には驚いた。(中学校のときは細かくやらないからかもしれないが、このようには習わなかった。(ちなみに私は理系だが物理・化学選択だったので高校生物は1年のときに一部しか履修していない。。)

第2章 APG分類体系で変わった! 被子植物の科

正直この章は旧体系を知っていないと厳しかった。。
写真が割とあったのが幸いだった。。

第3章 APG体系の目でみる植物進化

この章では新体系での具体的な分類をみていき、植物の進化について解説されている。

特にキントラノオ目という仲間には本当に様々な特徴を持った植物があり、これらの遺伝子が近いということがとても興味深かった。(専門用語で「適応拡散」というらしい。)

第4章 APG系統樹を使ってみよう

この章が個人的には一番面白かった。
ただ、内容的には第3章よりも進化を扱っていたような印象。

実は重要だった花粉の穴の数

以前は進化を考える上で関係ないと考えられてきた、花粉の穴の数がAPG系統樹では真正双子葉類とそれ以外とを分類することができるようになったみたい。発生の初期の特徴は割と初期に決まっているのかという感じがしてとても興味深い。

木と草と

植物には木と草があるが、基本的には草が進化した形である。ただ、一部の草になったものが木に戻った例もあると系統樹から考えられる。

樟脳の香りは一億年前に

樟脳は昆虫が忌避する植物の精油成分であるが、これを持つ植物群(モクレン類(コショウ、クスノキなど))は送粉者としての蝶や蜂がまだいなかった1億年前に分岐していると考えられる。この時代は甲虫しかおらず、それらは植物をかじったりすることが多いグループであることから、このような成分を持っているのではないかと考えられる。

被子植物の窒素固定は一つの進化から始まった

窒素固定は最近と共生することで、痩せた土地でも気体の窒素分子から窒素同化をできるという、一部の植物が持つすごい能力なのだが、以前の体系ではその能力を持つ植物群はバラバラに分類しており、それらが独自に獲得したものと予想されていた。しかし、APG系統樹ではそれらの植物群はまとまっており、(有名なマメ科、ブナ目、ウリ目、バラ目)一つの進化からはじまったものと考えられる。

何度も独立に進化した食虫性

窒素固定とは違い、食虫植物はAPG体系ではいろいろな目に分散して存在することらら、それぞれ独自に進化したものと考えられる。APG体系が遺伝的に基づいた体系である信頼のおける系統樹だからこそ、このような予想が立てられる。

ナデシコ目の食虫性 方針の後に方法が決まる

食虫植物はいろいろな目に存在するのだが、その目の中では食虫性を持つクレードが存在して食虫性の獲得が説明できる。

訪花昆虫と縁を切ったブナ目

ブナ目は風媒花であるため、裸子植物に近い原始的な被子植物に近いと考えられていたが、APG体系によると真正双子葉類に分類され、マメ目に近い位置に分類されている。これは風媒花に戻ったものと考えられる。

風媒の王・イネ科

イネ科といえば、タケなど生命力の強い印象があるが、すべて風媒花を用いている方針をとったようだ。花粉をできるだけくっつけたい、イネのめしべがフェロモンを受容する必要のある蛾の触角に似た構造をしているというのはとても興味深かった。

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